DX人材が採れない会社はどうする?育成と外部活用の使い分け

DX推進人材が「大幅に不足」する企業が62%——採用できない現実を前に、内部育成と外部採用をどう組み合わせるか。ビジネスアーキテクト育成の具体的ステップとリスキリング設計の要点を整理した。

目次

「DXを進めようとしたが、推進できる人間がいない」。プロジェクトを立ち上げても頓挫する企業の多くが、この問題に突き当たる。システム刷新の失敗原因を遡ると、技術や予算ではなく、人材の問題に行き着くケースが少なくない。

IPAの「DX動向2024」によると、DX推進人材が「大幅に不足している」と回答した事業会社の割合は62.1%に達した。2021年度の30.6%から2年間で倍増した数字であり、状況は加速度的に悪化している(出典:IPA「DX動向2024 - 深刻化するDXを推進する人材不足と課題」)。

では、どのような人材が必要で、どう確保すればよいのか。本記事では、IPAのDX動向調査と総務省の情報通信白書を踏まえながら、システム刷新を推進できるチームの作り方を整理する。

なぜDX人材の確保が難しいのか

必要な人材像が定義できていない

DX人材不足の背景には、「何の人材が足りないのか」が企業内で整理されていないという構造的な問題がある。IPAの調査では、DX推進人材を獲得・確保するうえでの課題として「戦略上必要なスキルやそのレベルが定義できていない」という回答が上位に挙がった。採用しようにも、スペックが曖昧なままでは市場で競争できない。

IPAは「デジタルスキル標準」の中で、DX推進に必要な人材を5類型に定義している。ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティの5種だ。この分類を活用することで、「自社に今何が不足しているか」を言語化しやすくなる(出典:IPA「デジタルスキル標準 ver.1.2」2024年7月)。

処遇の問題が採用を阻む

「魅力的な処遇が提示できない」という課題も、IPAの調査で最も回答割合が高かった項目(41.3%)の一つだ。デジタル人材の市場価値は年々上昇しており、特にエンジニアやデータサイエンティストは、大手テック企業との待遇競争が避けられない。中堅・中小企業が外部から即戦力を採用しようとすると、人件費が想定を大きく超えることが常態化している。

総務省「令和6年版 情報通信白書」でも、DX推進の課題として日本企業の53.1%が「人材不足」を挙げており、米国(32.7%)やドイツ(38.4%)を大きく上回る(出典:総務省「令和6年版 情報通信白書」)。この差は、処遇面の競争力だけでなく、人材育成への投資の差にも起因している。

DX推進チームに必要な3つの人材類型

システム刷新を推進するチームを組成する際、最低限確保すべき人材類型は3つに絞られる。

1. ビジネスアーキテクト:業務とITをつなぐ存在

最も確保が難しく、最も重要な役割がビジネスアーキテクトだ。IPAの定義では、「DXの取組において、目的設定から導入、導入後の効果検証までを、関係者をコーディネートしながら一気通貫して推進する人材」とされている。

この役割の本質は、業務部門とIT部門の間に立つ橋渡し機能だ。経営の意図を技術要件に落とし込み、IT側の制約を経営判断に反映させる。この人材がいないと、業務部門は「システムに振り回されている」と感じ、IT部門は「要件がころころ変わる」と消耗する。双方の不満が高まり、プロジェクトは停滞する。

ビジネスアーキテクトに求められるスキルは、ビジネス変革(戦略・マネジメント・プロセス設計)の知識に加え、データ活用・テクノロジー・セキュリティの基礎知識だ。ITの深い専門性よりも、コーディネーション能力と全体俯瞰力が重要になる。

2. データ活用人材:意思決定を数字で支える

システム刷新の目的は多くの場合、業務効率化とデータ活用の基盤構築にある。移行後に「データが取れるようになったが、使い方がわからない」という事態を避けるためには、データサイエンティストやデータエンジニアをプロジェクトの早期から参画させる必要がある。

JFEスチールは2018年から社内のデータサイエンティスト育成を開始し、2024年度末時点で600人規模まで拡大した。規模の大小はあれど、「現場のデータを読める人間」を組織内に育てることが、長期的なDX推進力を決定づける。

3. 変革を実行するプロジェクトリーダー

IPAの調査では、レガシーシステム刷新の課題として「レガシーシステム刷新に長けたプロジェクトリーダーがいない」が24.9%に達した。技術知識と推進力を兼ね備えたリーダーの不在は、プロジェクト失敗の直接原因になりうる。

このポジションには、PMP(プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル)資格やIPAのITストラテジスト資格のホルダーが候補になるが、資格よりも「過去の刷新プロジェクトでの修羅場経験」のほうが実態に即した評価軸になることが多い。

内部育成と外部採用:使い分けの原則

日本企業が陥りがちなパターン

IPAの国際比較調査によると、米国企業がDX人材の確保に「外部採用」を優先するのに対し、日本企業は「社内の既存人材の配置転換や育成」を優先する傾向がある。日本の労働市場の流動性が低いという構造的制約もあるが、「既存社員を動かしやすい」という慣行的な判断も働いている。

どちらの手段が優れているわけではない。自社の事業特性と必要なスキルの希少性によって、最適解は変わる。以下の原則で使い分けることを勧める。

外部採用が有効な場面

即戦力が必要な専門職(データサイエンティスト、クラウドアーキテクト、セキュリティエンジニアなど)は、外部採用のほうが立ち上がりが速い。自社業界の業務知識よりも、IT技術の深さが求められる役割に向いている。

採用コストは高くなるが、育成期間のコストと機会損失を考慮すると、プロジェクト開始前に必要なスキルを持った人材を外部から確保したほうが総コストで有利になるケースがある。

内部育成が有効な場面

業務知識が重要な役割——特にビジネスアーキテクト——は、内部育成との相性がよい。自社の業務プロセスを熟知した現場経験者に、ITリテラシーを上乗せする形が機能しやすい。

ただし「ITを少し学べばビジネスアーキテクトになれる」という甘い想定は禁物だ。対象とする人材の素養(全体思考・コミュニケーション力・変革への意欲)を事前にアセスメントしなければ、育成投資が無駄になる。


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リスキリング施策の具体的な進め方

内部育成の中核を担うのがリスキリングだ。現場の既存社員に、DX推進に必要なスキルを習得させる取り組みを指す。「IT部門以外の社員がDXを理解し、推進できる状態」を作ることが目標になる。

ステップ1:必要スキルの棚卸しと対象者の選定

リスキリングの失敗原因の多くは、「全員に一律のプログラムを適用する」という設計にある。まず自社のDX推進で必要なスキル(データリテラシー、プロセス設計、クラウド基礎、セキュリティ基礎など)を洗い出し、現状のギャップを評価する。その上で、スキルギャップが大きい層と、育成投資に見合うポテンシャルがある層を特定する。

対象者の選定には、IPAが公開している「デジタルスキル標準」のDXリテラシー標準を活用できる。全社員向けの「基礎リテラシー」と、推進人材向けの「専門スキル」を分けて定義することで、階層別の育成プログラム設計が容易になる。

ステップ2:学習機会の設計

リスキリングプログラムの主な形態は3つある。

集合研修(OFF-JT):短期間で体系的な知識を習得させる。外部ベンダーのDX研修、クラウド認定資格取得プログラム、データ分析研修などが選択肢になる。総務省の調査では、日本企業はOFF-JTによる人材育成が必要な状況にもかかわらず、育成予算が増加傾向にないことを懸念材料として指摘している。予算の優先度を明確にしなければ、リスキリングは「建前」で終わる。

OJTとプロジェクトへの参画:実際のDXプロジェクトにメンバーとして加わることが、最も効果的な学習機会になる。ただし「投げ込む」だけでは機能しない。経験のある推進者がメンターとして関与し、週次でのリフレクションを設けることが成果につながる。

自己学習の環境整備:UdemyビジネスやAWSのSkill Builderなど、オンライン学習プラットフォームを活用する企業が増えている。費用対効果は高いが、自己学習のみに依存すると習得の深度にばらつきが出る。上記2形態と組み合わせて補完的に活用するのが現実的だ。

ステップ3:成果の測定と継続改善

リスキリングの効果は、資格取得数や研修受講率では測れない。「習得したスキルが実業務に適用されているか」という行動変容をモニタリングする必要がある。

NECは全社員向けのデータリテラシー研修と、生成AI活用人材育成プログラム「虎の穴」を展開し、26テーマで合計26,000時間の工数削減施策を創出した。単なるスキル習得に留まらず、具体的な業務改善行動に繋げた点が成功の要因だ。

DX人材戦略を機能させる組織の仕組み

評価制度の刷新が不可欠

リスキリングへの投資を無駄にしないためには、習得したスキルが評価に反映される仕組みが必要だ。「DXに貢献した」「新しい技術を習得して業務改善した」という行動が評価されなければ、社員はリスキリングに時間を使う動機を持てない。

多くの日本企業では、年功序列・職能等級に基づく評価制度がDX人材育成の障壁になっている。全面的な制度改革は難易度が高いが、「DX推進への貢献」という評価軸を追加するだけでも、現場の行動は変わり始める。

小さな成功体験を積む

組織のDX推進力は、大規模プロジェクトより「小さな成功体験の積み重ね」で醸成される。部門単位での業務自動化、データ集計の効率化、社内ツールの改善——こうした小さな改善を積み上げることで、推進人材が経験を蓄え、組織全体がDXへの自信を高める。

この観点から、系統的なシステム刷新は「大プロジェクト」として一気に進めるより、業務単位での段階的な改善として設計したほうが、人材育成の観点でも成功率が高い。エンジニア不足が企業にもたらすリスクと属人化解消の施策については、エンジニア不足時代のシステム管理術の記事で詳しく解説している。

まとめ

DX人材の確保と育成は、一時的なプロジェクト課題ではなく、継続的な経営課題だ。本記事のポイントを整理する。

  1. 「何の人材が足りないか」を定義することが先決だ。IPAのデジタルスキル標準を活用し、ビジネスアーキテクト・データ活用人材・プロジェクトリーダーの3類型を軸に現状のギャップを把握する。
  1. 内部育成と外部採用は使い分ける。業務知識が重要な役割は内部育成向き、高度な専門技術が必要な役割は外部採用向き。自社の優先課題に合わせて両手段を組み合わせる。
  1. リスキリングは「設計」が成否を左右する。対象者を選定し、OFF-JT・OJT・自己学習を組み合わせ、行動変容を測定する仕組みを作る。研修受講率を成果指標にしても意味がない。
  1. 評価制度の整合がないと人材育成は機能しない。DXへの貢献が評価される仕組みがなければ、社員はリスキリングに時間を割かない。小さなステップでも評価制度との整合を取ることが、育成効果を持続させる条件だ。

人材戦略とシステム刷新計画は、切り離して考えるものではない。チームが現行システムの実態を把握しないまま刷新を進めても、要件定義で行き詰まる。現状把握とチーム編成を同時に進めることが、DX推進の実質的な起点になる。

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参考文献・出典